WD





 彼がそわそわと時計を見て嬉しそうにしている。
 長い耳も嬉しそうにピコピコ…彼があんな行動をとるのはあの娘の為だけ。
 どうせアリスが来るんだろう、面白くないなぁ。

 あぁ、来た来た…ペーターさんは嬉しそうに彼女に抱きつく。
 「ペーター!苦しいから……!!」
 「あぁ、僕の愛が貴方を苦しめてしまうんですね…アリス」
 「相変わらず人の話を聞かないお耳ねえ!」
 「いいなぁ、俺も抱きつこうかな?」
 俺がアリスに近寄った瞬間、殺気を放ったペーターさんに撃たれる。
 「死んでください、エース君…」
 あぁ、やっと俺を見てくれた。
 「ハハハハ、じゃあ俺ペーターさんに抱きつこうかな…」
 「結構です…」
 ペーターさんがもう一発俺の眉間を狙って銃弾を放つ。
 ペーターさんの狙いは正確だ、だから避けやすい…。
 避けた俺の目の前を弾丸が跳んでいく。
 「で、ペーターさん…アリスと何処に行くの?教えてくれるよね?」
 「エースくん、剣を突きつけて言う言葉ですか…」
 「…………………で、何処に行くの?」
 そのときペーターさんが視線を俺から逸らした、耳もクンニャリと伏せられている。
 頬も赤く染まって反則的に可愛い…何でそんな可愛い顔してるのペーターさん。
 それは誰のための顔なの?
 「貴方には関係ありません……」
 「関係なくないよ、ペーターさんと俺の仲だろ?」
 「どんな仲ですか……」
 「ハイハイハイ!夫婦喧嘩は犬でも食わないっていうでしょ、
 今日はあんまり時間がないの!ペーター行きましょ!」
 「犬って…帽子屋さん所のうさぎ君のことかい?それだったら人参じゃないと」
 「っっっ!!行きましょうか…アリス………」
 先ほどの表情と違い、キリリと眉を吊り上げて俺を睨むとアリスの手をとって歩き始める。
 「え?ペーターさんなんでいきなり怒ってるの??」
 今日のペーターさんっていろいろな顔をして面白い…けど。
 ちょっと面白くない…。
 「エース、自分で蒔いた種なんだから今日は出かけないで城の中に居なさいよ!!」
 ペーターに引き摺られるよう歩いている、アリスが俺にそう声をかけてくる。
 「???何だか分からないけど分かったよ」
 アリスが苦手だという爽やかな笑顔を浮かべて応えてやる。
 さて…とりあえずは城内に居ればいいんだよな……。
 たまには部屋に帰ってみようかな♪

___________


 まぁ、部屋帰れる気ではいたんだけど…。
 結局迷子の末、庭園の何処かでキャンプを張ることにした。
 テントの入り口をボスボスとノックする音、この落ち着いた潔癖そうな気配は彼だろう。
 「夜這い?ペーターさん…」
 テントの入り口を開け顔を出すと、ペーターさんはあからさまに不快そうな顔をする。
 「やはり帰ります…こんな雑菌だらけの場所」
 「アハハ、じゃあ俺がペーターさんを襲っちゃおうかな…」
 俺は手を伸ばすと、白い手袋をつけた手を引っぱる。
 テントの中に転がり込んでくる白ウサギ…。
 「撃ちますよ…」
 俺に掴まれてない方の手で時計を手に取る…凶暴なウサギに威嚇されてる。
 「ペーターさん、今日はアリスと何処に行ってたの?デート?」
 ペーターさんの手が止まり、俺を睨んでいた視線がそらされる。
 「………買い物です…アリスが…」
 アリスのことは聞きたくない…彼女のことを思いながらそんな顔をしないで欲しい。
 平常心で居られなくなる。
 俺は空いていた手を、ペーターさんの頭の後ろに回し無理やり唇を合わせた。
 「!!エース君っ…何…ん…ぅ…っ」
 ペーターさんが俺の胸を叩く、赤い瞳が見開かれ俺を見つめてくる。
 気持悪いくらいに赤で埋め尽されたこの城で唯一美しい緋。
 見蕩れていると胸に硬いものがあたる、あ…撃たれるかも……。
 「ハハハ、ペーターさん撃たないでよ」
 ペーターの体を離す。
 「撃ちません…」
 そう言って俺に、箱を押し付けると頬を赤くし、耳を垂れさせウサギは脱兎の如くテントを出て行った。
 「アリスが居ないのにあんな顔するなんて反則」
 押し付けると小さな箱を開けると方位磁石型の入れ物…。
 開けると中には色とりどりの体に悪そうなチョコが入っていた……プレゼントってことかな?
 っていうか、凶暴なウサギに頭の中を乱された何も考えられないよ…今日は寝よう。
 緋いチョコを一つ口に入れると、目を閉じた。

______________


 後日、森の小道でアリスに会った、猫くんと、双子くんに、会いに行くそうだ。
 俺はこの間のペーターさんのプレゼントのことを聞いてみた。
 「あぁ、あれは…この間ペーターが、エース君が嫌がらせにニンジンチョコをくれたんですけど…。
 どうせ3月ウサギにでも貰ったんでしょうね…本当に鬱陶しいですって言ってたから。
 し返しのチョコを買いに行ったのよ」
 「それが方位磁石チョコ…」
 ポケットから、渡された方位磁石を取り出す。
 「エースが方位磁石を持つって猫に鈴をつけるみたいじゃない?」
 「俺に鈴…なんか面白くないな……」
 「ね、人の嫌がることする返されるのよ」
 「ハハハ、俺ペーターさんに愛されてるなぁ」
 「ねえ、エース。私の故郷のイベントなんだけどチョコを貰ったら
 愛の告白の意味があって、お返しに薔薇の花束かお菓子を返すのが定番なの…」
 「ペーターさんは知らないよね」
 「ええ、ついでに言ってみただけよ」
 「俺も、もっと嫌がらせしてみようかな…じゃあアリス、双子くんにまた遊ぼうって言っておいて」
 アリスと別れると、俺は白い薔薇の花束を買い城に向かった、緋色の瞳に映える白い薔薇を彼に渡すために。